第 5 話:安全性の財務分析 〜 資金繰りチェック 〜

(2005.07.25 初版,2005.08.04 改訂)


第 4 話で,「株式会社ユニシロ」を例にとり,株式の市場価格と投資価値について考えてみました.この 2 つを冷静に比較し割安・割高を判断できれば,株式を安いとこで買って高いとこで売るチャンスが広がります.そりゃそう.でも,「ちょー割安株だぁ.突撃ぃ!」と勢いづいて投資しても,投資先が経営破綻してしまっては元も子もありません.ちなみに,「元も子も・・・」の「元」は元金,「子」は利子の意味だそうです.まさに文字通り,\(^o^)/ ワーイ!クミヤくん自身,「やばいかな?」と思っていた投資先が音信不通になって,元も子も無くしたことがあります.(--;) ガーン!まあ,それはそれとして.どうせ投資するなら経営破綻しなさそうな会社にしておきたい.さて,どこをどうチェックしましょう?

投資先が音信不通

とりあえず,経営破綻の意味を考えてみましょう.経営破綻とは,簡単な話,経営が立ち行かなくなることです.まあ,そりゃそうなんですが,中には,「でも,経営が立ち行かなくなったら,会社を解散・清算しちゃって残余財産を株主に分配しちゃえばいいんだよね」と思った方もいらっしゃることでしょう.そういうあなたは,「第 2 話:株主の権利 〜 出資側から見たメリット 〜」の内容をよく理解しています.エライよ,キミ,ヽ(^_^ ) よしよし.でもでも,経営破綻を甘くみちゃいけません.十中八九,債務超過です(→「債務超過とは」).そう,全資産を処分して債務弁済(債務 = 負債)に充ててもまだ足りないくらいで,残余財産の分配なんてとんでもないことです.という訳で,経営破綻となると,手持ちの株券は紙屑同然です.クミヤくん自身,紙屑を記念品として保有しています.\(ToT)/ ワーイ!シクっ・・・

債務超過

それじゃあ次に,経営破綻の直接の原因を考えてみましょう.直接の原因は,ほとんどの場合,資金繰り難です.そう,債務を約束通り返済できなくなったからなのです.例えば,借入金延滞の元本・利息が膨らんで首が回らなくなったとか,買掛金の延滞が膨らんで仕入に支障を来たすようになっとか,振出した手形が不渡りになり銀行取引停止に追い込まれたとか.(oo;) ひょえ〜!もちろん,資金繰りに行き詰まるまでの経緯は,多々ありましょう.販売が不振だったとか,設備投資にカネを掛け過ぎたとか,過剰在庫を抱え込んだとか,放漫経営を続けたとか,取込み詐欺に遭ったとか・・・でも,経営破綻に至る前に資金繰り難を経由するのは,ほとんど共通なのです.

様々な要因→資金繰り難→経営破綻

という訳で,会社が経営破綻しなさそうかどうか占うのに重要なポイントが見えて来ましたね.そう,資金繰りに余裕があるかどうかです.

重要なのは資金繰りに余裕があるかどうか

「でも待てよ?資金繰りに余裕があるかどうか,(*_*) 何をどう見ればいいの?」結論から申しますと,財務分析の手法を使い,貸借対照表を見て,流動比率,当座比率,現金比率,固定比率,自己資本固定比率,自己資本比率などを計算して判断します.分析などというと大それた話のように思えますが,なあ〜に,大したことはありません.(-- ) フフフっ!クミヤくんが特に重視しているのは,当座比率現金比率自己資本固定比率の 3 指標.以下では,これらについて説明しましょう.

貸借対照表

まずは,

当座比率 当座資産
流動負債

です.ここで,分母の

流動負債 = 支払手形 + 買掛金 + 短期借入金 + 1年以内返済予定の長期借入金 + 未払金 + 未払法人税等 + ・・・

は,概ね 1 年以内の短期的な支払義務です.また,分子の

当座資産 = 現金預金 + 受取手形 + 売掛金 + 短期保有目的の有価証券 + 未収入金 + 未収消費税 + ・・・ − 流動資産の貸倒引当金

は,現金そのもの,容易に現金化可能な資産あるいは近々現金化される資産の合計で,短期的な支払能力です.当座比率は,流動負債の支払義務を当座資産でどれくらい賄えるかを表し,短期的な支払余力を計るための指標です.当座比率が 100% 以上ならば,けっこう安心できます.ちなみに,当座比率 100% 以上の会社の割合は,国内全上場会社ベースで,5 割くらいです(2005.03 末現在).さ〜て,先ほどの(株)ユニシロの貸借対照表を参照しながら,当座比率を計算してみましょ.ε = ε = ┏(・_・)┛ ゴー!

当座比率
当座資産
流動負債

(60,000 + 2,000 + 1,000 + 3,000 + 500 + 100 − 100) 千円
45,000 千円

148%

ん〜,good です.当座比率だけ見る限り,(株)ユニシロへの投資をためらう理由は見当たりません.

次に,

現金比率 現金預金
流動負債

です.よ〜く見なくても,すぐに判っちゃうのですが,当座比率の式と似ています.違うのは分子で,分子に算入できるのが,現金と預金だけとかなり限定されています.現金とは,通貨,小切手,郵便為替証書,振替貯金払出証書,期限到来の公社債利札,配当金領収書などのことで,預金とは,金融機関に対する各種の預け金や郵便貯金,振替貯金などのことです.現金預金は,最も確実な支払能力です.現金比率は,流動負債の支払義務を現金預金でどれくらい賄えるかを表し,やはり短期的な支払余力を計るための指標です.現金比率は当座比率に較べてよりシビアな指標なので,現金比率が 100% 以上ならば,かなり安心できます.ちなみに,現金比率 100% 以上の会社の割合は,国内全上場会社ベースで,1.5 割くらいです(2005.03 末現在).とーっても少ない.さ〜て,先ほどの(株)ユニシロの貸借対照表を参照しながら,現金比率を計算してみましょ.

現金比率
現金預金
流動負債

60,000 千円
45,000 千円

133%

ん〜,very good です.現金比率だけ見る限り,(株)ユニシロへの投資をためらう理由はやはり見当たりません.

最後に,

自己資本固定比率 資本
固定資産

です.ここで,分母の

固定資産 有形固定資産 + 無形固定資産 + 投資その他の資産

建物 + 構築物 + 車両及び運搬具 + 工具器具及び備品 + 土地 + ソフトウェア + 投資有価証券 + 長期貸付金 + ・・・ − 固定資産の貸倒引当金

は,長期使用・長期所有を目的とする現金化しにくい資産です.また,分子の

資本 = 資本金 + 資本剰余金 + 利益剰余金 + その他有価証券評価差額金 + ・・・

は,返済義務のない資金です(→「第 1 話:株式発行,そのワケ 〜 経営側から見たメリット 〜」).自己資本固定比率は,現金化しにくい固定資産を資本でどれくらい賄っているかを表し,中長期的な資金繰りを計るための指標です.自己資本固定比率が 100% 以上ならば,固定資産を債務に頼らず賄えることを意味するので,長〜い目で見て安心できます.例えば,設備投資に当てた長期借入金の返済が何年か後に苦しくなるとか,そのために事業用資産を売り払わなければならなくなるとか,そういう不安が少ないのです.ちなみに,自己資本固定比率 100% 以上の会社の割合は,国内全上場会社ベースで,5 割くらいです(2005.03 末現在).さ〜て,先ほどの(株)ユニシロの貸借対照表を参照しながら,自己資本固定比率を計算してみましょ.

自己資本固定比率
資本
固定資産

240,000 千円
150,700 千円

159%

ん〜,やはり good です.自己資本固定比率だけ見る限り,(株)ユニシロへの投資をためらう理由はやっぱり見当たりません.

上記 3 指標以外にも,短期的な支払余力を計るための指標として,

流動比率 流動資産
流動負債

があり,中長期的な資金繰りを計るための指標として,

固定比率 固定資産
資本

自己資本比率 資本
資産

があります.流動比率は,当座比率に比べて分子の支払能力として見る範囲を広げてあり,例えば商品などの棚卸資産も支払能力として勘定しちゃいます.ただ,クミヤくんの場合,以前,流動比率で問題無いからと投資した先が過大な棚卸資産を抱えて経営危機に陥り,「(--;) ガーン!」な経験をした経緯があり,それ以来,流動比率は使っていません.固定比率は,自己資本固定比率の分母・分子を逆さまにしただけの指標で,自己資本固定比率の代りに使えます.が,数値が小さいほど良くて大きいほど悪いという性質は,単純なクミヤくんの感情を逆なでします.(-_-メ;) むかっ!という訳で,固定比率も使っていません.自己資本比率は,自己資本固定比率に比べて分母の固定資産を資産全体まで広げたもので,資産全体を資本でどれくらい賄っているかを表します.ただ,クミヤくん的には,「資本で流動資産まで賄う必要性は薄いだろうから,中長期的な資金繰りなら,固定比率を見れば十分」という見解です.

さ〜て,如何ですか?当座比率,現金比率,自己資本固定比率の 3 指標,ご理解頂けましたか?この 3 指標から見る限り,(株)ユニシロは経営が安定していて安心感がちょー強いです.資金繰り,経営破綻の心配は要らんでしょうし,資金の余力を活かした設備増強・買収などの積極増収策も期待できます.あとは,株式の投資価値と市場価格との比較でちょー割安だと判断できれば,思い切って買えちゃいますよね.
上記 3 指標のうち,あなたはどれを重視しますか?クミヤくんの場合,当座比率を最重視していて,この指標値が X% 未満の会社には投資しません.X が幾つか?それは企業ヒミツ.(-- ) ふふっ・・・当座比率を投資候補の絞込みに使っている訳ですが,他の現金比率,自己資本固定比率は,参考指標に留めています.というのは,まず,現金比率の場合,支払能力として見る範囲が小さ過ぎて,これで投資候補を絞り込むと,例えば営業債権を沢山持っている優良ノンバンクなんかが圏外に去ってしまうからです.また,自己資本固定比率の場合,支払能力を直接見る指標ではなく,重要度が劣ると思えるからです.

さて,安全性の財務分析も解ったところで,次回は,株式売買の判断方法です.

ホーム
ホームへ帰る