第 2 話:株主の権利 〜 出資側から見たメリット 〜

(1997.12.01 初版,2004.08.15 改訂)


第 1 話にて,あなたとクミヤくんはカジュアル衣料店「株式会社ユニシロ」を共同で設立しました.あなたが社長で,クミヤくんは専務.二人とも代表取締役で,「ヤッター.借金もないし.これで思いのまま.」「何でもありだねー.儲けは山分けだあ.ウーヒッヒッヒッ・・・」なーんちって笑ってる場合じゃないんです.世の中そんなに甘くない.なぜなら,会社の No.1(一番偉いの)は株主ですから.もうちょっと正確に言うと,株主全員で構成する機関の株主総会です.まあ,機関に序列を付ければ,No.2 が取締役会で,No.3 が代表取締役というとこです.株主が神様なんですよ.なぜ?だって,お金払って出資してくれたんだから.株主が居なかったら,会社も無かった.無から有は生じません.忘れちゃいけません,そのことを.株主は会社の所有者(オーナー)だし,支配者なんです.取締役は,会社の運営を委託されているに過ぎません.この辺の事情を理解できずに踏ん反り返っている取締役さんたちが,世の中に多過ぎます.困ったもんだい.解任されちゃうよー.

株主は偉い(その 1)

株主は偉い(その 2)

株主は偉いので,経営参加権を持ってます.具体例を出せば,株主総会で多数決に参加する権利を持ってます.そう,議決権です.個々の株主は,持株数に応じた分だけ議決権を持ってます.株主平等の原則ってヤツが生きてる訳ですね〜ぇ.お金を沢山出した者ほど強い!これが,資本主義社会で言う平等です.一人一票じゃないから,勘違いしないこと!

議決権は株数に比例

それから,提案権なんてのもあります.発行済株式数の 1% 以上持ってれば,その株主は,株主総会の議案を提案できるんです.たったの 1% でいいんですよ.株主総会の議案とは,利益処分案の承認取締役・監査役の選任などです.利益処分とは,1 営業年度(普通は 1 年)の儲けを,配当金(株主に支払うお金),役員賞与金(取締役・監査役に支払うボーナス),内部留保(会社に残すお金)に分配することです.次が,利益処分の内容を表示した利益処分計算書の一例です.

利益処分計算書

ここで 1 つの仮定をしましょう.もし(株)ユニシロの取締役のあなたとクミヤくんが,会社の運営をおろそかにして赤字を垂れ流したり,代表取締役の地位を利用して,役員賞与金をボッタクるような利益処分案を作ったり,会社の財産を私物化したり(これは,横領か背任で,立派な犯罪!)すると,どうなるでしょう?こんなシナリオが考えられます.我々取締役に怒りを覚えたある株主が,我々を解任して,もっと株主にとって魅力的な人間を取締役に据えるよう提案します.提案権の行使です.そして,他の多くの株主の賛同を得て,議決権の行使により,その提案を実現する.ちなみに,任期満了前の取締役を解任するには,特別決議(総議決権の過半数の行使と,行使された議決権の 2/3 以上の賛成)が必要です.が,任期満了に伴って新たに取締役を選任するならば,普通決議(総議決権の過半数の行使と,行使された議決権の過半数の賛成)で十分です.あなたとクミヤくんも株主ですが,持株合計 100 株で全体の 1/6.他の株主に総スカンを食っては,どのみち,太刀打ちできません.う〜ん,恐い.取締役は,株主の不興を買ってはいけないのです.

取締役の罷免

ただ,ちっぽけな(株)ユニシロならまだしも,上場会社クラスともなれば,現職の取締役が株主総会で追放されるなんてことは,滅多にありません.なぜなら,発行済株式数があまりにも多い上,沢山の株主に分散しています.過半数の株主が結束して会社の経営に口出しするなんて,実際には起こり難いんです.大方の株主は,よほどのことが無い限り,取締役会が作った株主総会議案に全面賛成するか白紙委任しちゃうかです.

株主総会の形骸化

となると,大会社の小口株主にとって,経営参加権はほとんど意味を持ちません.じゃあ,「取引所などで大会社の株式に投資する理由はいったい何なんだろう?」とは思いませんか?そう,そこがポイントなんです.実は,経営参加権意外にも株主の権利はあるんです.財産権的権利とでも申しましょうか,会社のお金に直接からんだ権利で,金銭的評価が明確にできるだけに,株式の値段に大きな影響を及ぼします.企業会計の話と絡めて,それらの権利を簡単に説明しましょう.

まずは,残余財産分配請求権.企業会計では,必ず貸借対照表というのを作ります.次がその一例です.

貸借対照表

貸借対照表の左側(会計用語で借方)には,現金預金や建物や土地など資産の帳簿価額が列記してあって,会社が集めた資金の運用状況が表示されます.右側(会計用語で貸方)には,借入金や支払手形などの負債と,資本金(株式の発行で集めたお金)や積立金などの資本の金額が列記してあって,会社の資金調達状況が表示されます.資産の総額は,資金調達の総額と必ず一致するようになっているので,

資産 = 負債 + 資本

です.大雑把に,次図みたいな理解をしとくと良いでしょう.

大雑把な貸借対照表

ここで,唐突ですが,会社を解散・清算することを考えてみましょう.その場合,まず,資産を換価(換金)します.これらが帳簿価額通りに換価できたとして,次は,債権者に借金を返済して負債を 0 にします.すると,

資産 − 負債 = 資本

の分が残ります.ここで,問題です.残った資本は,いったい誰のものでしょう?「従業員のもの?」「ブー.」「社長のもの?」「ブー.」「じゃあ,株主のもの?」「ピンポーン.」 結局,株主は,持株 1 株につき

1 株純資産 = 資本 / 発行済株式数

を受け取る権利があります.これが残余財産分配請求権です.
例えば,(株)ユニシロが順調に利益を重ねて発展した後,解散・清算するとします.そしてそのとき,貸借対照表が先の例の通りだったら,解散後,

240,000 千円 / 600 株 = 400 千円/株

のお金が,残余財産として株主の懐に戻る訳です.そして,あなたとクミヤくんは,

400 千円/株 × 50 株 = 20,000 千円

ずつのお金を受け取っちゃいます.出資額(2,500 千円)の 8 倍じゃないですかあ.いやあ,儲かっちゃったなあ.頑張った甲斐がありました・・・おっとヨダレが.失礼.
ただ,世の中で実際に会社の解散・清算が行われるのは,会社が赤字を垂れ流し,借金を重ね過ぎて資金繰りに行き詰まったケースが多く,負債が資産を上回るような状態のときです.債務超過ってヤツです(→
「債務超過とは」).このときは,

資本 = 資産 − 負債 < 0 (マイナス)

になっているので,株主の中には,「残余財産がマイナス?もしや,俺は,お金を受け取るどころか,逆にむしり取られるんじゃねえのか?ヤバイ,逃げよーっと!」なんて夜逃げする人もいるかも知れません.でも,大丈夫.このようなケースでは,株主に,出資分も含めてお金が一銭も戻ってこない,つまり,手持ちの株券が紙屑になるだけのことで,それ以上の責任はありません.これが株主の有限責任ってヤツです.株主は出資の範囲内でしか責任を負わないのです.
「じゃあ,土地・建物,その他の資産を売っぱらっても返せない負債は,いったいどうするんだあ?」ってなるけど,その分は債権者に放棄してもらうことになります.債権者集会を開いて,取締役が「ゴメンナサイ」って土下座して債権者が「バカヤロー」って怒鳴って殴りかかったりするかどうかはケースバイケースでしょうが,どのみち,債権者に泣いてもらうんです.シクシク(T_T).中には,債権者が取締役個人から回収を計るケースもありますが,それは取締役が会社の負債に対して連帯保証してる場合であって,また別の話です.
尚,会社の解散は,特別な事由(解散を命ずる裁判など)が無い限り,やはり,株主総会の決議で決定します.

さて,次に,利益配当請求権.企業会計では,必ず損益計算書というのを作ります.次がその一例です.

損益計算書

損益計算書では,売上高や営業外収益や特別利益など収益,売上原価や販売費及び一般管理費や営業外費用や特別損失など費用,そして法人税,住民税及び事業税の金額が列記してあって,全体として

収益 − 費用 − 法人税,住民税及び事業税 = 当期純利益

という計算をして,当期純利益を求めてます.これら収益,費用,法人税,住民税及び事業税,当期純利益は,1 営業年度に関するものです.大雑把に,次図みたいな理解をしとくと良いでしょう.

大雑把な損益計算書


ここで,問題です.当期純利益は,いったい誰のものでしょう?「従業員のもの?」「ブー.」・・・ちょっとシツコイですね.止めときましょう.株主のものです.そして,この当期純利益に,前期繰越利益を足して,既に払っちまった中間配当金などを引いたりして,当期未処分利益を算出します.そしてそして,当期未処分利益をどう処分するかは,株主総会で決議されます.そう言えば,先ほど,株主総会での利益処分案の承認のとこでも,ちょっと説明しちゃいました.よろしいですか?利益をどう処分するかは,飽くまでも株主総会の権限です.利益が出たら,株主は,当然,株主総会決議を経て配当金をぶん取る権利があります.これが利益配当請求権です.株主は,持株 1 株につき

1 株当り配当金 = 配当金総額 / 発行済株式数

を受け取るのです.
例えば,(株)ユニシロが商品をガンガン売って,損益計算書が先の例の通りで,次のような利益処分を行ったとしましょう.

利益処分計算書

すると,

12,000 千円 / 600 株 = 20,000 円/株

のお金が,配当金として株主の懐に入る訳です.あなたとクミヤくんは,

20,000 円/株 × 50 株 = 1,000,000 円

ずつのお金を受け取っちゃいます.出資額の 40% じゃないですかあ.たった 1 年分でこんなに・・・おっと,またヨダレが.失礼.
ただ,世の中では,利益に対する配当金の割合が,会社によって結構バラバラです.利益処分は株主総会の権限,とは言うものの,現実的には,取締役会で作った利益処分案がそのまま株主総会で通っちゃうことがほとんどで,世間にはケチな取締役が多いですから,スズメの涙ほどしか配当金が出ない会社も多々あります.大部分が内部留保となってしまうなんてことがザラな訳です.すると,短気な株主は,「せっかく会社が利益を稼いでも,配当金支払いがわずかなら,株主は得しねえじゃねーか?バカヤロー」なんて思ったりします.よくあることです.でも,まあ,落ち着いて,先程の残余財産分配請求権を思い出しましょう.資本は,株主のものでした.利益の内部留保は,そのままそっくり,別途積立金,次期繰越利益などの形で資本に組み込まれます.となると,利益の内部留保も,株主のもんじゃないですかあ.そう,だから,利益が内部留保に回されても,ガッカリしなくてイイのです.
あと,役員賞与金の分は,株主の懐には入りませんが,通常,配当金総額に較べれば額は少ないです.まあ.株主から役員へのお裾分け・ご褒美・寸志ということで,あんまり気にしなくていいでしょう.

利益は株主のもん

という具合で,話をまとめると,結局,利益はぜ〜んぶ株主のもんで,その処分は株主総会の決議事項です.さっきの損益計算書から,(株)ユニシロの株主の皆さんは,1 年で

27,000 千円 / 600 株 = 45,000 円/株

だけのお金が自分の懐に入って来たと思ってりゃいい訳です.出資額の 90% じゃないですかあ.たった 1 年分で・・・おっと,またまたヨダレが.失礼.

さて,株主の権利を見て来ましたが,「残余財産分配請求権があるって言ったって,会社が解散しない限り,そんなもの意味ないよなー.」とか,「株主の権利が,株式の価値や時価に,どうやって結び付くんだあ〜?」とか,思いませんか?これらに関しては,「第 3 話 株式の発行市場と流通市場」と「第 4 話 株式の価値と時価」にて.

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