第 1 話:株式発行,そのワケ 〜 経営側から見たメリット 〜

(1997.12.01 初版,2002.11.17 改訂)


「株式発行,そのワケ」これが意外と理解されていません.ある株式会社のオーナ経営者と話をしていたら,仲間の経営者の方々は,案外とその理由を知らないとか.「法律(商法)で株式発行が義務づけられてんだから,仕方ないじゃん」みたいな雰囲気らしいのです.そりゃあ,困ったもんだい.
さて・・・例えば,あなたとクミヤくんが共同でカジュアル衣料店「ユニシロ」を設立して経営することになったとします.それには,まず,お店を借りるために保証金を差入れたり,衣料品を仕入れたりするために,何千万円,そうですねえ,例えば 3,000 万円もの資金を用意しなければならなかったりします.「先立つものはカネ」というワケです.仮に,あなたもクミヤくんも貧乏という程ではないにしても金持ではないとしましょう(T_T) .すると先ず,借金することが思い浮かびます.「誰かからお金借りない?そうだ,銀行に行こう.」とハリキッて行って「信用も実績も無いけど,将来性だけは有るから,おカネ貸して?」と言ったところで,門前払いを食らってオシマイでしょう.

カネは簡単には借りれない

たとえ首尾良くお金を借りることが出来たとして,3,000 万円もの負債(債務,借金)は重過ぎます.利払いに元金返済.ちょっと業績が悪くなれば,利払いだけでも「ひぃ〜ひぃ〜」です.しかも,差入れ保証金やお店のめぼしい設備は,債権者(お金を貸してくれた人)に借金の担保として押さえられ,あなたもクミヤくんも個人で会社の連帯保証人にさせられて,もうガンジガラメです.しまいには,破綻,破産,倒産,夜逃げなんてことにもなるかも知れません.

恐るべき負債

そこで,考えました.いっそのこと株式会社を作っちゃいましょう.「株式会社ユニシロ」です.1 株 5 万円で,600 株発行すれば 3,000 万円ですよね.あなたとクミヤくんが発起人として,頑張ってカネ溜めて,50 株ずつ 250 万円ずつ引き受けます.つまり,2 人とも,250 万円を(株)ユニシロに払い込み,それと引き換えに 50 株の株式を受け取ります.250 万円ずつ出資するのです.残りの 500 株 2,500 万円は,金持ち父さん,お母さん,姉妹兄弟,お爺さん,お婆さん,おじちゃん,おばちゃん,従兄弟,彼女,彼氏,誰でもOKのいろんな投資家に,分割して引き受けてもらうことにしましょう.お金を出し渋る人には,例えば 2 株 10 万円とか小額を出資してもらえばよいでしょう.このようにして集めたお金を資本といいます.資本提供者,株式所有者を株主(あるいは社員)と呼びます.通常,株式を表象する券面として株券が作成・交付されますが,その場合,株券は出資証書の役目を担います.

資本が負債を削減

株主(社員),資本,出資,株式,株券

経営側から見て,負債と比べた場合の資本のメリットは,何と言っても返済の義務が無いことです.例えば,資金繰りの苦しくなった会社が,お金持の銀行などから支援の融資を受け,負債として資金を取込むことがあったりします.が,一時凌ぎです.そう,返済期限が来れば,また資金繰りが苦しくなるのがミエミエなんです.もっと有効なのは,新たに株式を発行して資本を増やすことです.これを有償増資と呼びます.2000.09,風変わりな有償増資がありました.業務用味付け油揚げでトップのオーケー食品工業(株)が,産業再生法の認定を受けて,リストラを敢行して不採算のきのこ事業から撤退したりしたのですが,その際,メインバンクの西日本銀行に頼み込んで,何と!!負債を資本に転換したのです.借用書を株券に換えちゃったんです.「そんなのありかよ〜」って感じですが,ありなんです.具体的には,西日本銀行に対して優先株式を 1 株 160 円で 1,562.5 万株発行して 25 億円払い込んでもらって,そのお金で西日本銀行からの借入債務 25 億円を返済したんですが,こういうのを「債務株式化(debt equity swap)」と言います.

債務株式化

さて,株式発行のメリットを会社経営者の側から見て来ましたが,投資家の立場から見て「いったい,株主になることに何のメリットがあんの?」とは思いませんか?実はここが大事なんですよね.なぜなら,メリットが無きゃあ,株式なんか誰も買いません.これに関しては,次の機会に・・・

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