拡大?後退?景気動向の見方

(1999.08.20 初版,2005.09.16 改訂)


昨年来(2004 年〜)景気がウダウダしていわゆる踊り場でしょうか,気が晴れませんでしたが,最近(2005.08.09)になって,政府,日銀から相次いで「景気が踊り場を脱却した」という旨の表明がありました.要は,2002 年 1 月から拡大して来た景気が,2004 年半ばあたりから足踏みを始めて,拡大か後退かハッキリしない状況に陥っていたのですが,ここに来て再び拡大し始めたということみたいです.(・o・) ホント?

踊り場脱却?

ところで,拡大してるのか後退してるのか,景気動向って何で判断するか,ご存知ですか?クミヤくんの場合,昨今,ときたま,お友達とかから,「世の中,ず〜っと景気悪いよねぇ」みたいな話を聞かされて,「(-o-;) えっ!3 年以上前に景気が底入れしたんだけど・・・」と音にならない声を発しながら口をパクパクさせて引くことがあります.景気に鈍感な方は,意外に多いです.

ず〜っと景気いよねぇ → 3 年以上前に景気が底入れしたんだけど

2002 年 1 月から,景気拡大してるよね → うん,そうそう

景気動向については,実は,内閣府経済社会総合研究所というところが,景気基準日付というのを設定していて,景気の山(拡大から後退へ切替った時期)・谷(後退から拡大へ切替った時期)を決めてくれています.「今までの景気基準日付ってどうなってるの?景気基準日付ってどうやって決めてるの?」そんな探究心旺盛な方は「内閣府:景気動向指数の利用の手引」の景気基準日付をご覧あれ.この景気基準日付を見ると,世の中の景気動向を歴史まで含めて完璧に知ることが出来ます.ところが,景気基準日付には大きな難があります.山・谷の決定が何しろ遅過ぎるのです.確定まで 2〜3 年以上,暫定設定までですら 1 年以上待たされます.(-_-;) ゲゲっ!最新の景気動向を知るという目的には使い難いんです.

景気の局面・転換点(景気基準日付)

そこで,せめて 1〜2 ヶ月遅れで景気動向を判断するネタは無いものかとなりますが,あるんですねぇ,その名もズバリ「景気動向指数」(内閣府経済社会総合研究所景気統計部発表).この指数には,大きく分けて,「ディフュージョン・インデックス(略して DI)」「コンポジット・インデックス(略して CI)」の 2 種類があります.あっ,そうだ,忘れてました.CI の代用として「鉱工業生産指数」(経済産業省経済産業政策局調査統計部発表)も,けっこう使えます.以下では,これら 3 指数の性格・見方について説明しま〜す.株式投資家としては,景気動向と株価との関連も気になるところです.が,今回は,株価との関連は置いといて,取り敢えず,景気動向の判断をそれなりに出来ないとカッコ悪いということで,一般教養として,景気動向指数,鉱工業生産指数についてお勉強しましょう.これであなたもエコノミスト!?

【ディフュージョン・インデックス(DI)】
DI は,景気の局面(景気が拡大してるか後退してるか)の判断・予測や転換点(山・谷はいつか)の判定に用いられます.DI には,一致指数先行指数遅行指数の 3 種類があり,それぞれ景気に対して一致・先行・遅行して動くものとされます.いずれの DI も,景気に敏感な経済指標をいくつか採用し,そのうち改善を示している指標の割合をパーセンテージで表します.一般的に,先行指数は,一致指数に数ヶ月先行するので,景気動向の予測に利用され,遅行指数は,一致指数に半年から 1 年遅行するので,景気動向の確認に利用されます. DI は,次の手順で計算します:

  1. まず,各採用指標の各月の値を 3 カ月前の値と比較して,改善 +,保合い 0,悪化 − とし,変化方向表を作成します.

  2. 次に,改善(+)指標数の割合を計算します.その際,保合い(0)指標は 0.5 個の改善指標としてカウントします.

    DI 改善指標数
    採用指標数

    例えば,2005.05 の DI 一致指数は,以下のように計算されます.

    改善指標数 = 7,保合い指標数 = 0,採用指標数 = 11  ⇒  DI 一致指数 7
    11
    63.6%

下図に,1986.01〜2005.07 の DI 一致指数と景気基準日付による景気の局面・転換点とを示しましょう.

DI 一致指数と景気の局面・転換点(景気基準日付)

DI から景気動向を探る場合,一致指数の値が 50% を横切る時点が重要になります.というのは,一致指数が 50%〜100% の値を連発してるときは,景気の動きに一致する経済指標の多くが改善し続けてるので,景気が拡大局面にあると考えられますし,その逆に一致指数が 0%〜50% の値を連発してるときは,景気が後退局面にあると考えられますし,従って,一致指数が 50% を横切る時点は,拡大・後退の局面の転換点かその近傍ということになるからです.ただし,ときたま,1〜数ヶ月の短期間で一致指数が 50% ラインを上へ行ったり下へ行ったりすることがありますが,そういうのは景気の転換点と見なさないことになっています.
DI の過去数十年分の時系列,DI の計算に用いられる経済指標など,DI の詳細に関しては,内閣府:景気統計を参照して下さいネ.

【コンポジット・インデックス(CI)】
CI は,DI と同様に景気の局面の判断・予測や転換点の判定に用いられるほか,更に景気変動の大きさやテンポ(量感)を測定するのにも用いられます.CI にも,一致指数先行指数遅行指数の 3 種類があります.CI の計算概略は,「各採用指標の変化量を加重平均し,累積したうえで,指数化する」となっています.が,これでは,何のことかサッパリ解りません.取り敢えず,1986.01〜2005.07 の CI 一致指数と景気基準日付による景気の局面・転換点とを示しましょう.

CI 一致指数と景気の局面・転換点(景気基準日付)

CI から景気動向を探る場合,一致指数の上昇・低下・山・谷のほか,その上昇・低下の大きさが重要になります.一致指数の上昇・低下・山・谷は,景気動向の拡大・後退・山・谷とほぼ一致しますし,一致指数の上昇・低下の大きさは,景気の拡大・後退のテンポを表します.その時々の景気の量感まで見ることが出来るのです.例えば,同じ上昇でも,急な上昇は景気拡大のテンポが急であることを示しますし,緩い上昇は景気拡大のテンポが緩いことを示します.
CI の詳細に関しては,やはり
内閣府:景気統計を参照して下さい.

なお,景気動向と密接な DI,CI ですが,景気基準日付の設定は,DI,CI そのものではなく,DI 一致指数の各採用指標から作られるヒストリカル DI という指数に基づきます.そのためか,先のグラフで,景気基準日付と CI,DI の山・谷とがビミョーにズレている場合があります.景気基準日付の詳細は,「内閣府:景気動向指数の利用の手引」の景気基準日付を参照して下さい.

【鉱工業生産指数】
鉱工業生産指数は,CI 一致指数の代用として使えます.つまり,景気の局面の判断・予測や転換点の判定のほか,景気変動の量感を測定するのに使えるのです.鉱工業生産指数は,元々,その名が示す通り,鉱工業の生産活動を把握するために作られた指数ですが,CI 一致指数の代用として充分機能します.まあ,百聞は一見に如かずで,1986.01〜2005.07 の鉱工業生産指数と CI 一致指数とをグラフ上で較べてみましょう.

鉱工業生産指数と CI 一致指数

どうです?変動の仕方がソックリでしょう?特に 1990 年代以降なんか,双子の姉妹(兄弟か?)のようです.なので,鉱工業生産指数の変動と景気動向との相関も高いです.1986.01〜2005.07 の鉱工業生産指数と景気基準日付による景気の局面・転換点とを示しましょう.

鉱工業生産指数と景気の局面・転換点(景気基準日付)

ということで,鉱工業生産指数を CI 一致指数の代用として用いても良いことは,ご理解いただけたとは思いますが,何故,鉱工業生産指数と CI 一致指数との連動性が高いのでしょうか?知りたいですかぁ?( ) フフフ・・・実は,CI 一致指数の採用指標の一つが鉱工業生産指数そのものである上に,他の採用指標として,鉱工業生産財出荷指数,大口電力使用量,製造業稼働率指数,製造業所定外労働時間指数,製造業中小企業売上高,製造業中小企業出荷指数と,鉱工業生産指数との連動性がけっこう高い指標がズラリと並んでいるからです.日本経済は,やはり,工業,製造業に負うている部分が大きいのです.あっ,そうそう,それから,鉱工業生産指数を CI 一致指数の代用として用いるメリットは何でしょうか?知りたいですかぁ?( ) フフフ・・・それは,何と言っても発表が早いことです.速報なんか,当該月の翌月下旬(27 日頃?)に発表されます.CI 一致指数の速報よりも 10 日くらい早いです.
鉱工業生産指数の詳細に関しては,
経済産業省:統計から「統計発表資料:鉱工業生産・出荷・在庫指数」をクリックして参照して下さい.

次回は,景気動向・株価動向の相関関係と予測についてです.

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