各種利益の区別

(1998.08.01)


皆さん,経常利益や当期純利益など,「〜利益」という言葉を見たり聞いたりするのは,日常茶飯事のことと思います.でも,いくつかある「〜利益」の意味の違いを理解できている人は,意外に少ないかも知れません.

銀行など,ちと特殊な企業を除く一般企業の会計の場合,1 営業年度の経営成績を表す利益には,以下の 5 つがあります.

  • 売上総利益(粗利益)
  • 営業利益
  • 経常利益
  • 税引前当期純利益(税引前当期利益)
  • 当期純利益(当期利益)
    これらは,損益計算書を使い,「売上総利益 → 営業利益 − ・・・ → 当期(純)利益」と順々に導かれる過程を追っていくと理解しやすいでしょう.食品会社 F の損益計算書の例(← クリック)を見ながら説明しましょう.

    損益計算書の例 利益の導かれる過程

    【売上総利益(粗利益)】
    「売上総利益」は,製品・商品の売上高から,その製造・仕入に掛かった費用,つまり売上原価を差し引いただけのものです:

    売上総利益 = 売上高 − 売上原価
    会社が本業で得た利益の骨格部分と言えるでしょう.別名「粗利益(あらりえき)」とも呼ばれます.名前に感じが出てるでしょ〜.私,こっちの呼び方,気に入ってます.
    例えば,食品会社 F は,昆布の佃煮などを作っています.売上高は,昆布の佃煮など製品を売って得たお金で,37,709 百万円あります.また,売上原価は,製造業務で掛かる一切の費用で,昆布・醤油・水など材料を買って払ったお金の他,佃煮を作ったり工場の管理をしたりしている役員・従業員の労務費,さらには,工場の光熱費・減価償却費などの経費まで含み,25,385 百万円あります.その結果,以下のように売上総利益が計算されるのです:

    売上総利益
    = 37,709 百万円(売上高)− 25,385 百万円(売上原価)
    = 12,324 百万円

    【営業利益】
    「営業利益」は,売上総利益から,販売部門や管理部門で生じた費用,つまり販売費及び一般管理費を差し引いたものです:

    営業利益 = 売上総利益 − 販売費及び一般管理費
    会社が本業で得た利益,そのものですねえ.
    例えば,食品会社 F は,昆布の佃煮などの製品をを食品の問屋や小売店に売っています.売上総利益は,12,324 百万円あります.また,販売費及び一般管理費は,販売業務・一般管理業務(製造・販売以外の業務)に掛かる一切の費用で,製品の販売手数料・保管費・運搬費・荷造費・広告宣伝費・売掛金貸倒損失などの他,販売業務・一般管理業務の役員・従業員の給料・交際費・旅費,販売業務・一般管理業務の光熱費・減価償却費などなどで,9,483 百万円あります.その結果,以下のように営業利益が計算されるのです:

    営業利益
    = 12,324 百万円(売上総利益)− 9,483 百万円(販売費及び一般管理費)
    = 2,841 百万円

    【経常利益】
    「経常利益」は,営業利益に,本業以外で生じた収益・費用のうちで経常的なもの(特別または臨時でないもの),つまり営業外収益・営業外費用を加減したものです:

    経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 − 営業外費用
    本業も本業以外もひっくるめて,会社の当該営業年度の業績を最もよく反映する利益と言えるでしょう.
    例えば,食品会社 F は,営業利益が 2,841 百万円あります.また,預金・借入金があり,短期保有目的で株式などの有価証券を保有していて,営業外の収益・費用も発生しています.営業外収益は,預金・有価証券から得られる受取利息・受取配当金,有価証券を売却したときに生ずる有価証券売却益(売却価格 − 簿価)などで,751 百万円あります.営業外費用は,借入金に掛かる支払利息,有価証券を売却したときに生ずる有価証券売却損(簿価 − 売却価格),有価証券の価格目減りによる簿価引き下げで生ずる有価証券評価損(旧簿価 − 新簿価)などで,400 百万円あります.その結果,以下のように経常利益が計算されるのです:

    経常利益
    = 2,841 百万円(営業利益)+ 751 百万円(営業外収益)− 400 百万円(営業外費用)
    = 3,192 百万円

    【税引前当期純利益(税引前当期利益)】
    「税引前当期純利益(税引前当期利益)」は,経常利益に,特別または臨時の損益,つまり特別利益・特別損失を加減したものです:

    税引前当期純利益 = 経常利益 + 特別利益 − 特別損失
    当該営業年度の業績に,臨時損益(固定資産売却損益・火災損失・保険差益など)や前期損益修正(過年度引当金過不足修正額・過年度減価償却過不足修正額・過年度棚卸資産評価訂正額・過年度償却債権取立益など)までもヒックルめた,トータルの利益と言えるでしょう.最近,大手ゼネコンに,経常黒字なのに税引前当期純利益は大赤字という会社が目立ちます.バブルの後始末で,不動産損切りや子会社清算など,不良資産を一括処分しているためです.これらは臨時損失の好例ですね.大手ゼネコンの利害関係者には,お気の毒ですが・・・
    ところで例の食品会社 F は,経常利益が 3,192 百万円あります.特別利益は,過年度に納めた法人事業税の還付金,過年度に繰入れた引当金の戻入益で,259 百万円あります.特別損失は,固定資産処分損,投資有価証券(長期保有目的で買った有価証券)の売却損・評価損,貸倒損失で,460 百万円あります.その結果,以下のように税引前当期純利益が計算されるのです:

    税引前当期純利益
    = 3,192 百万円(経常利益)+ 259 百万円(特別利益)− 460 百万円(特別損失)
    = 2,991 百万円

    【当期純利益(当期利益)】
    「当期純利益(当期利益)」は,税引前当期純利益から,法人税(国税)・住民税(地方税)を減じたものです:

    当期純利益 = 税引前当期純利益 − 法人税・住民税
    いわば利益の最終形で,利益処分の原資となります.配当金・役員賞与金・内部留保へ分配されるのです.ですから,株主・役員としては,法人税・住民税の税率が低いほどウレシイ!のです.ちょうど今,政府で,税率を引き下げる話が出てます.株主・役員はウハウハです.
    さ〜て例の食品会社 F ですが,税引前当期純利益が 2,991 百万円あります.法人税・住民税は合せて 1,233 百万円です.その結果,以下のように当期純利益が計算されるのです:

    当期純利益
    = 2,991 百万円(税引前当期純利益)− 1,233 百万円(法人税・住民税)
    = 1,758 百万円

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