バブルとは

(1997.12.01,2004.09.21 改訂)


「バブルとは何?」バブル景気が崩壊して久しくなりますが,この質問に,即座に簡潔に答えることのできる人は意外に少ないのかも知れません.私の理解はこうです.内在的な価値を有した物には,それに相応しい価格というものがあるでしょう.ところが,時として価格が価値から遊離し著しく高くなるときがあります.そのときの価格と価値の差がバブルです:

P(価格)≫ V(価値)⇒ P − V がバブル.

バブル

ですから,価格が高いものが何でもバブルかというと,そういう訳ではありません.それなりに価値が備わっていれば,バブルは無いのです.また,逆に価格が低いからバブルが無いかというと,そういう訳でもありません.

バブル無し有り

「じゃあ,物の価値をどうやって計算するの?」この質問はどうでしょう.これは,けっこう難しいです.物の価値計算は,ケースバイケースでしょうし,同じ物を見ても人によって価値の見積もりが異なったりします.例えば,絵画に興味も無ければ素養も無い人にピカソの絵を見せても,その人は何億円もの価値を見出すことは出来ないでしょう.また,価値計算が不可能な物もあるでしょう.
ただ,株式なら,商法という法律でそれに付随する権利も規定されてますし,投資以外の目的で買う人は少ないでしょうし,価値計算方法はかなり限定されるでしょう.「株式投資入門第 4 話:株式の市場価格と投資価値」では,純資産法収益還元価値法配当割引法折衷法の 4 つの投資価値計算方法を紹介しました.まあ,何れにしろ,株主の権利のうち,お金に関係あるもの(残余財産分配請求権,利益配当請求権)をもとに投資価値計算している訳です.
また,賃貸用不動産では,収益還元法という方法で投資価値計算を行うことが流行っています.この方法は,株式の収益還元価値法や配当割引法などと同じ流れを汲み,期待収益から資産価値を逆算する方法です.アメリカでは 1960 年代頃からよく使われていたらしいのですが,バブルが崩壊して,日本でもようやく日の目を見る時が来ました.収益還元法を簡略化して説明すると次のようになります.例えば,賃貸用ワンルームマンションの家賃収入から管理費・減価償却費等の経費を差し引いて純利益が 66 万円/年で,市場利子率が 3.3 % だったとします.すると,収益還元法によるこのマンションの価値は,

価値 = 66 万円 / 3.3% = 2,000 万円.

最近は,収益還元法で見て妥当あるいは割安な価格のマンションが沢山見られるようになりましたが,バブル真っ盛りのときは,例としてあげたようなマンションが 6,000 万円とかで売買されていたそうです.当時は金利も高かったあ.1% 程度の利回りの投資用マンションに,5% 以上の金利で借りたお金を注ぎ込んでいたのでは,採算が合うはずはありません.

それからもう 1 つ,「バブルは悪者なの?だとしたら,なぜ?」という質問はどうでしょう.これも人によって意見の分かれるところです.「バブル景気の頃はみんな幸せだったあ.もう一度,あの頃に戻りたい.いったい,誰がバブルを崩壊させたんだあ.チキショー.」と思ってる人も確かに居ます.例えば,先程の利回り 1% 程度の投資用マンションでも,バブル景気のときは年 10% 程度の値上り益が出るのは当たり前でしたから,それを考慮すれば十分採算が合います.採算が合うどころか大儲けです.りっぱな投資になります.
ただ,私は,やはりバブルは悪者だと思います.なぜなら,最終的に大損する人が沢山出て,世の中が大混乱するからです.バブルを膨らませながら物を次々に転売して行く様子は,ババ抜きに似ています.物の価格が価値を大きく上回る状態が永遠に続くとは思えません.不自然です.最後に大損する人が必ず出ます.

ババ抜き

最後にババを引いた人達だけが損して終わればいいのですが,それで終わらないのから厄介です.その人達にお金を貸していたノンバンクが貸付金を回収できなくなり,さらにそのノンバンクにお金を貸していた銀行が貸付金を回収できなくなり,というように貸付金の焦げ付きが連鎖して,目も当てられぬ惨状になります.
例えば,バブル真っ盛りのときに流行ったのは,投資家が金融機関からお金を借りて賃貸用不動産を買い,金融機関はその不動産を担保に取るということです.この投資は不動産価格が順調に上がる限りは上手く行きます.なぜなら,価格が上がった段階で不動産を売って,そのお金で借入金を返済して,なおかつ値上り益分のお金(不動産譲渡益)が投資家の手元に残るからです.また,金融機関も,予定通りに利息収入が入って貸付金も回収できて,大満足です.
ところが,不動産価格が低下すると大問題です.もともと賃貸収益はほんの僅かで,とても借入金利息は支払えません.そこで,不動産を売って借入金を返そうと考えますが,そうしても不動産が無くなった上に借入金の一部が残るので,やはりダメです.そうこうしているうちに,返済が滞り,不動産価格は更に下がり,金融機関はいよいよ貸付金回収を諦めて担保権を行使します.が,時すでに遅し.担保不動産は何分の一にも値下がりし,売却しても貸付金焦げ付きの一部しか穴埋めできません.元々,不動産価格の方が貸付金額よりも高かったはずが・・・これもバブルの為せる業です.尤も,バブルを信じて不動産の正確な価値見積もりを怠った金融機関が悪いと言えば,それまでですが.

最後に,バブルの証券投資理論のお話をしておきましょう.「バブル景気の日本の証券市場は 1929 年の大恐慌以前のアメリカの証券市場と似ている.」とよく言われますが,私もそう思っています.その頃のアメリカ証券市場で支配的であった投資理論は「よりひどい愚者の理論(bigger fool theory)」でした.これは,株価に適正水準などというものはなく,どんな高い価格で買っても,もっと高い価格で買ってくれるもう一人の愚か者が居さえすればよい,という考えでした.歴史は繰り返されるんですねえ.

ということで,バブルのお話でした.

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