第 4 話:株式の市場価格と投資価値

(1997.12.01 初版,2004.09.21 改訂)


第 1 話にて,あなたとクミヤくんが共同で設立したカジュアル衣料店「株式会社ユニシロ」が,苦節十年,山あり谷ありで,西暦 20XX 年に証券取引所に上場できたとしましょう.ヤッタ.そうすると,(株)ユニシロの株式は毎日のように投資家同士で売買されるようになります.何となくメデタイ.売買するときは,買いたい投資家と売りたい投資家とが,それぞれ証券会社を通して取引所に,自分は幾らで何株買いたいか売りたいか,注文を出します.通常,買い手はできる限り安く買おうとし,売り手はできる限り高く売ろうとします.駆け引きです.まっ当然.そして,双方の希望価格が合致して初めて取引が成立するんです.このときの取引価額が,株式のその瞬間の市場価格となります.
細かいことに拘りますと,複数の指値注文が舞い込んだらどの注文から幾らで執行するんだ?とか,同じ指値で複数の注文が出たらどうすんの?とか,指値を決めない成行注文は?とか,疑問がフツフツと湧いて来ますが,それらは,価格優先,時間優先,成行注文優先などのキーワードで Google 検索してみて下さいましー.ここでは触れません.

取引不成立

取引成立

証券取引所での市場価格は,日本経済新聞などの相場表で毎日見ることができます.特に東京証券取引所に関しては詳しくて,1 日の市場価格の動きが,始値(はじめね),高値(たかね),安値(やすね),終値(おわりね)の四本値(よんほんね)として載っている他,前日比,売買高なども載っています.

市場価格

という訳で,市場価格は実際の取引価額で決まるので,市場経済ではす〜んごく尊重されます.そりゃそう.でも,流通市場では,「エイッ,突撃ィー ε=ε=┏( ・o・)┛」とか「うぉりゃあ,これでも食らえ〜 (ノ-o-)ノ ~ ̄」とかいうノリで注文を出す投資家や売買家(トレーダ)も沢山います.ちょっと言い過ぎましたか (^_^;)?でもでも,市場価格が 1 日で数パーセント,数十パーセントも変動するのをしばしば見てると,どのみち,市場価格のいい加減さは否めません.そんな訳で,市場価格の動きだけを見て株式を買ったり売ったりすると,とんでもない目に遭ったりします.クミヤくんみたいに.エヘッ (^_^;).

となると,「市場価格は横に置いといてぇー (/^_^)/,株式が元来持ってるであろう投資価値を合理的に求める方法は無いもんかねぇ?」みたいな欲求も,自然に出て来るっちゅーもんです.でも,その瞬間,ブ厚い壁にブチ当たります.「どうやって計算すんのよ ?(-_-;)?」ちょっと,想像もつきません.
それで,暇なクミヤくんが,あれこれ調べてみました.そして,とうとう見つけちゃいました w(・o・)w \(^o^)/.答えは,簿記証券分析の教科書の中にあったのです.投資価値計算法には,いろ〜んなバリエーションがあるのですが,結論を申しますと,エッヘン!最も根源的・基本的で理解しやすいのが,純資産法収益還元価値法配当割引法,そしてそれらを折衷した折衷法の 4 つでしょう.以下では,これらに関して,順を追って説明しますが,理解するポイントは「原点に戻って,株式を持つとどういう権利が手に入るか考える」ことです.素直になることが肝要です.

まず,1 つ目,純資産法について.お金に絡んだ株主権で,最重要なものの 1 つと言えば,残余財産分配請求権.「資本(= 純資産)は株主のもの!」という権利です.すると,ごく単純に,

1 株当り純資産価値 資本
発行済株式数

を株式の投資価値と見なせます.ハイ,これでオシマイ.どう?簡単でしょう.ここで一例.(株)ユニシロの貸借対照表に登場してもらいましょう.Come on!

貸借対照表

発行済株式数は 600 株でした.この場合,

1 株当り純資産価値
資本
発行済株式数

240,000 千円
600 株

400 千円/株

と計算できちゃいます.やっぱり,簡単でしょ.

次に,2 つ目,配当割引法について.お金に絡んだ株主権で,最重要なもののもう 1 つと言えば,利益配当請求権.「株主は,利益の配当を請求できるんだ!」という権利です.すると,配当金額から投資価値を導くことができます.これは,正直言って,理解も説明もちと骨が折れます (^_^;). でも,頑張っちゃいましょう.まずは一例から.(株)ユニシロの利益処分計算書に登場してもらいましょう.Come on!

利益処分計算書

発行済株式数は 600 株でした.すると,

1 年当り 1 株配当金
1 年当り配当金総額
発行済株式数

12,000 千円/年
600 株

20 千円/(株・年)

です.ここで,一つの仮定というか予想をしましょう.(株)ユニシロが今後永遠に 20 千円/(株・年)の配当を続けるものと予想します.この株式の投資価値は,配当落ち直後(配当金が支払われた直後)で,幾らと計算されるべきでしょう?ただし,配当金支払日はキッカリ 1 年おきで,一般的な債券・預貯金の類で 1 年間お金を運用したときの利子率は今後永遠に 4% であると予想します.

投資価値

何だか数学の問題っぽくなっちゃいましたね.そう,実は数学の問題なのです.数学というと苦い思い出をお持ちの方も多いことでしょう.クミヤくんもその一人です.だいたい,あの数学のセンコーが (--#)・・・失礼,熱くなっちゃいました m( _ _ )m.先へ進みましょう.
まずは,手始めに,1 年後(最初)に支払われる 1 株配当金 20 千円の現在価値 V1 を計算しましょう.現在価値を計算するというのは,将来受取る現金等を現在の金額に換算することです.これは,次のように考えます.現在もし現在価値 V1 を一般的な債券・預貯金の類で運用すると,1 年後には 4% 増えて V1 × 1.04 の金融資産を手にすることができます.これが 20 千円になるはず.ちゅーことは,

V1 × 1.04 = 20 千円/株

です.そんでもって,上式の両辺を 1.04 で割ってやれば,

V1
20 千円/株
1.04

19.231 千円/株

です.ヤッター.取り敢えず,1 年後が完了.じゃあ,2 年後に支払われる配当金 20 千円の現在価値は?これは,さっきの計算の延長戦みたいなもんで,次のように考えます.現在もし現在価値 V2 を一般的な債券・預貯金の類で運用すると,1 年後には 4% 増えて,さらにもう 1 年後には複利で 4% 増えて,結局,今から 2 年後には V2 × 1.04 × 1.04 の金融資産を手にすることができます.これがやっぱり 20 千円になるはず.ちゅーことは,

V2 × 1.042 = 20 千円/株

です.そんでもって,上式の両辺を 1.042 で割ってやれば,

V2
20 千円/株
1.042

18.491 千円/株

です.ヤッター2.ついに,2 年後も完了.じゃあ2,3 年後に支払われる配当金 20 千円の現在価値は?もうお分かりですね.

V3
20 千円/株
1.043

17.780 千円/株

です.やったー3.だんだんクドくなって来たので,一挙に投資価値 V の計算に移りましょう.この V は,1 年後,2 年後,3 年後,・・・に支払われる配当金の現在価値の列 V1V2V3,・・・の総和として求めれば OK です.Let's go!

V V1V2V3+・・・

20 千円/株
1.04
20 千円/株
1.042
20 千円/株
1.043
・・・

500 千円/株

ハイ,一例オシマイ.以上のように,毎年の配当金を現在価値に割引いて足し合せるところに,配当割引法という名前の由来があります.

現在価値に割引く

ところで,お気づきでしたか?先の計算で,

20 千円/株
1.04
20 千円/株
1.042
20 千円/株
1.043
・・・ 500 千円/株

の部分には,論理の飛躍があります.実は,こっそりと等比級数の和の公式:

aa ra r 2 +・・・ a
1−r
(ただし,|r| < 1)

を使っていたのです.これは,クミヤくんの場合,高校 3 年生くらいの微分積分学で習った気がします.(-_-)zzz 居眠りしてたのでほとんど記憶にありませんが.まあ,公式を信用して,そのまま使っちゃえばいいでしょう.
ところで,今まで,20 千円/(株・年) とか年利子率 4% とか具体的な数字をあてはめて配当割引法の計算をしてました.せっかくなので,一般化しちゃいましょう.それには,配当金支払時期を 1 年おきとは限らずに一定期間毎として,その一定期間を 1 期として,1 期 1 株当り配当金予想を一定額 d (≧ 0)として,更に 1 期当り利子率予想を一定値 ρ (> 0)とします.すると,

1 株当り配当割引価値 d
1 + ρ
d
(1 + ρ)2
d
(1 + ρ)3
・・・

d1

×
1 + ρ
1 − 1
1 + ρ

d
ρ

1 期 1 株当り配当金予想
1 期当り利子率予想

です.これを株式の投資価値と見なせます.ハイ,これでオシマイ.どう?導くのは複雑でも,最後は簡単でしょう.
なお,利子率予想についてですが,「実際,何の利子率を使うの?普通預金?定期預金?社債?国債?・・・」という疑問をお持ちの方も多いでしょう.先の式を計算の仮定で「永遠に・・・」とか言っていることを考えると,長期債に関する利子率を使うのが妥当でしょう.クミヤくんの場合,日経公社債インデックス長期債っちゅーのを使っています.これは,長期公社債(国債や社債などで償還までの残存期間が 7 年以上のもの)の平均利回りです.日経新聞に毎日最新の値が掲載されるので,けっこう便利です.

さてと,3 つ目,収益還元価値法について.残余財産分配請求権と利益配当請求権,これら 2 つを合せると,「配当金だけじゃない.当期純利益総てが株主のもんだ!」という考え方に至ります.すると,当期純利益額から投資価値を導くことができます.それには,ある一定期間を 1 期として,1 期 1 株当り当期純利益予想を一定額(≧ 0)として,更に 1 期当り利子率予想を一定値(> 0)として,計算に移るのが本筋です.が,皆さんお察しの通り,計算は,配当割引法の 1 期 1 株当り配当金予想のところを 1 期 1 株当り当期純利益予想で置き換えるだけのことで,

1 株当り収益還元価値
1 期 1 株当り当期純利益予想
1 期当り利子率予想

1 期当り当期純利益予想
発行済株式数 × 1 期当り利子率予想

です.ここで一例.(株)ユニシロの損益計算書に登場してもらいましょう.Come on!

利益処分計算書

この当期純利益 27,000 千円が,今後も永遠に毎期続くものと予想します.発行済株式数は 600 株でした.1 期当り利子率予想はやはり 4% であるとします.すると,

1 株当り収益還元価値
1 期当り当期純利益予想
発行済株式数 × 1 期当り利子率予想

27,000 千円/期
600 株 × 4%/期

1,125 千円/株

と計算できちゃいます.結局,簡単でしょ.

いよいよ,最後の 4 つ目,折衷法について.先の純資産法,配当割引法,収益還元価値法を較べてみると,けっこう投資価値がバラついているのが判ります.となると,「どの方法で投資価値を計算したらいいの?」なんて迷いも生じます.そこで,頭に浮かぶのは,3 つ足して 3 で割るみたいな妥協案です.もうちょっと一般的に考えると,

1 株当り折衷投資価値 1 株当り純資産価値 × (1 − αβ) +
1 株当り配当割引価値 × α
1 株当り収益還元価値 × β
αβ は,0≦α,0≦βαβ≦1 の範囲で適当に選ぶ.)

です.ここで,αβ=0 なら純資産法,α=1,β=0 なら配当割引法,,α=0,β=1 なら収益還元価値法と一緒で,それら以外なら正に 2〜3 法の折衷法,妥協の産物となります.この方法は,「俺ってさあ,収益還元価値法が好きなんだけどぉ,でも,純資産法,配当割引法も捨て難いしなあ.優柔不断なのよ」みたいなときに便利です.αβ をどう選ぶか,これは各投資家の判断に委ねられます.
ここで,またまた(株)ユニシロの例に再登場してもらいましょう.確か,

1 株当り純資産価値 400 千円/株

1 株当り配当割引価値 500 千円/株

1 株当り収益還元価値 1,125 千円/株

でした.試しに,先ほどの折衷法の式で α=0.3,β=0.6 として計算してみると,

1 株当り折衷投資価値 1 株当り純資産価値 × (1 − αβ) + 1 株当り配当割引価値 × α + 1 株当り収益還元価値 × β

400 千円/株 × 0.1 + 500 千円/株 × 0.3 + 1,125 千円/株 × 0.6

865 千円/株

です.う〜ん,確かに,400 千円/株,500 千円/株,1,125 千円/株の間を行くマイルドな値.ちょー心地イイ〜.

さて,投資価値計算法が解ったところで,次回は,経営破綻しなさそうな投資先を選ぶために,安全性の財務分析について考えてみましょう.

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