ヤオハン破綻!(後編)(1998.04.08 初版,1999.03.27 改訂) |
ヤオハンジャパンが会社更正法適用を申し立ててから半年経ちました.ヤオハンジャパン倒産の近因は,転換社債の大量償還による資金繰り行き詰まりでした.今回は,「転換社債とは何ぞや?」というところから始めて,ヤオハンジャパンの財務戦略・誤算・倒産との結び付きを考えてみます.
まずは社債の説明から.社債は,会社が発行する有価証券の一種で,設備投資や運転資金に当てるお金を集めるためのものです.発行市場で,会社は社債を投資家に売り出し,投資家は会社にお金を払います.投資家は,流通市場で社債を売ったり買ったりすることもできます.多くの場合,会社は,半年とか 1 年とか一定期間毎に社債所有者に利息を支払います.5年とか10年とか定められた期間が経過して償還期限が来たら,社債所有者は,券面に記載された額面金額を会社から受け取ります.売り出し価額は,額面と同額のときもあれば,額面より高かったり低かったりすることもあります.が,一度買って償還期限まで待つならば利回りが確定するので,定期預金と同じ感覚の有価証券と言えます.
社債の種類としては,普通社債,転換社債,ワラント債があります.上に示した性質のみを持つものは普通社債ですが,ここで説明したい転換社債は,独特の性質を併せ持っています.発行時に転換価格というものが決められて,社債保有者は,その価格で転換社債をその会社の株式に転換することができるのです.例えば,額面 100 万円,転換価格 500 円の転換社債を持ってる人がいるとします.その人は,転換社債を
の株式に転換(交換)できるのです.ちょっと変わってるでしょ.株式転換したとき,株価が転換価格を上回っていれば,社債保有者は利益を得ることができます.例えば,上記の算式で交換した株式が市場で 1 株 800 円で売られていたとします.2,000 株すべてをこの価格で売れば,
も儲かります.ウハウハです.ちなみに,転換価格は,発行時の株式時価とほぼ同水準で決められます.というのは,時価より高過ぎると転換が進みにくくなりますし,時価より低すぎると既存株主に不利益をもたらすからです.
ここで,普通社債や株式と比較して,転換社債のメリットを考えてみましょう.まず,投資家側のメリットは,以下のようにまとめられます:
そして,経営者側のメリットは,以下のようにまとめられます:
さて,ヤオハンジャパンの話に移りましょう.ヤオハンジャパンの場合,1990 〜94 年の割と短い期間に,転換社債・ワラント債込みで 624 億円(転換社債は 500 億円)もの資金を調達しました.ヤオハンジャパンは,調達資金を,収益見通し不透明な事業に投融資し,固定資産化していきました.返済のことなんか全く眼中に無いかのように.90 年代後半には,社債での資金調達で足りない分を,金融機関からの長期借入で補っていたようです.次のグラフは,その様子を示しています.
ヤオハンジャパンは,かなりの額の社債が株式に転換されることを目論んでいたと言われています.ところが,現実はそうなりませんでした.ほとんど転換されることなく,調達から僅か 4 〜 9 年後にほぼ全額を償還しなければならなくなったのです.次のグラフは,社債・長期借入金がドンドン膨らむ一方,資本(償還期限の無い株主持分)が伸び悩む様子を示しています.
では,なぜ社債が株式に転換されなかったのでしょう?その理由は,ヤオハンジャパンの株価の低迷です.次の図は,ヤオハンジャパンの株価の動きと,転換社債の転換価格,ワラント債の行使価格(転換社債の転換価格に相当するもの)とを対比して示したものです.
これでは,転換がほとんど進まなかったのも肯けます.株価はほとんどの期間に渡って転換価格や行使価格を下回っていたからです.株価低迷の要因としては,
ヤオハンジャパンの戦略ミス・誤算をまとめてみましょう:
ヤオハンジャパンは,転換社債の魅力に溺れ,余りにも楽観が過ぎ,墓穴を掘ってしまいました.
追伸
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