株式持合いとは(前編)
~ その問題点 ~

(1998.01.30)


株式持合いとは,日本独特の慣行で,企業が互いに株式の一部を所有し合うことです.株式持合いに関しては,昔から賛否両方の意見がありますが,今回は,株式持合いの問題点に関して考えます.

私は,株式持合いの問題を初めて深く考えたとき,マジックを見ているような気持ちになりました.何も無いはずの手の平から,次々とお札が出てくる,あのマジックです.
株式持合いの例として,新株を発行して互いに割り当て合うものを見てみましょう.最も質の悪い例です.
例えば,最低資本金 1,000 万円ずつで 2 つの株式会社が設立されたとします.A 社,B 社としておきましょう.

会社設立

この時点では,持合い関係は全くありません.ここで,A 社が 1,000 万円分の株式を新たに発行して B 社に割り当てたとします.このとき,B 社は手元の現金 1,000 万円を A 社に支払います.すると,A 社の資産は,現金 2,000 万円に増えます.一方,B 社の資産は,現金が枯渇する代りに A 社株式 1,000 万円相当が加わり,総額は変わりません.

A 社増資

そして今度は逆に,B 社が 1,000 万円分の株式を新たに発行して A 社に割り当てたとします.このとき,A 社は手元の現金 1,000 万円を B 社に支払います.すると,B 社の資産は,現金 1,000 万円が加わり,A 社株式 1,000 万円相当と合わせ,総額 2,000 万円に増えます.一方,A 社の資産は,現金が 1,000 万円に減る代りに B 社株式 1,000 万円相当が加わり,総額は変わりません.

B 社増資

この段階で,A,B 両社の間に株式持合いが生じました.両社の資産は 2,000 万円で,設立時の 2 倍となっています.が,実際に手元にある現金は,最初の 1,000 万円のままです.実質的な現金の受け渡しは全く無く,株券という紙切れを互いに渡し合っただけのことです.でも,資産は倍増しています.

持合い

同じことを何度もやると,A,B 両社の資産を幾らでも増やすことができます.

ここで問題点を考えてみましょう.

まず,新株発行による株式持合いで,ワクワクするのは経営者です:

  • 気心の知れた会社同士で大株主になり合い,既存株主の権限を弱めることで,経営者自身の保身を可能に出来る.
  • お金を掛けずに資本を増やす(借金せずに資産を増やす)ことにより,気軽に見かけ上の会社の財務内容を充実させることが出来る.
  • 新株を発行してもそれが市場に出回らず,株式の需給バランスを崩すことがないので,株式の時価を高く保ち,転換社債発行,新株発行などの次なる資金調達手段を温存できる.

    逆に,割を食うのは既存株主です:

  • 会社の実態は変わらないのに持株比率が下がるので,既存株主の権利(利益配当請求権,残余財産分配請求権,議決権)が薄まる.

    お金を払い込んだ既存株主が権限を失い,そうでない者(持合い相手の会社)が大きい顔をする.というのは,実に不公平です.

    持合い無限

    また,本来,株式発行により集めた資本は,株式会社運営の元手となるべきものです.したがって,会社運営を安定させるには,資本を充実させ資金を充実させるに限ります.このような考え方を資本充実の原則と呼んでいます.株式会社制度の大原則です.実質的にお金が払い込まれない有償増資による株式持合いなど言語道断なのです.

    先の例のような持合い:

    2 社持合い

    が野放しではまずいと言うので,商法でも,ある程度,持合いを牽制しています.

    持合い牽制

    でも,簡単に逃げ手は作れます.例えば,こんなのはどうでしょう.2 社の持合いではなくて,3 社の持合いです.

    3 社持合い

    これも良くないということで,商法では牽制しています.でも,まだまだナンボでもでも簡単に逃げ手は作れます.こんなんは如何でしょう.

    リング状持合い

    いっそのこと,こうしちゃいましょ.

    網目状持合い

    多くの会社でグループを組んで小分けにして持合えば,個々の持合いは規制に引っ掛からずに,結局はグループ全体で過半の株式を持合うことができるという訳です.

    なぜ,このような事態が起こるのでしょう?
    私は,そもそも,株式会社が株式を持つのがイケナイのだと思います.持株会社,投資信託や相互会社などはいいとして,事業を行う株式会社が株式を持つのがオカシイと思うのです.これが許される限り,株式持合いは無くならないのではないでしょうか?
    ところが,最近,一部で持合い解消の動きが出てきました.この動きは,バブル崩壊と密接に関わっています.これに関しては,またの機会に・・・

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