第 3 話:株式の発行市場と流通市場

(1997.12.01 初版,2004.09.04 改訂)


第 1 話にて,あなたとクミヤくんはカジュアル衣料店「株式会社ユニシロ」を共同で設立し,株式を発行し,資本を集めました.これは,まさに株式の発行市場を利用したことに他なりません.あっ,そうそう,市場は「いちば」じゃなくて「しじょう」で〜す,念のため.「いちば」は,どっか特定の場所に人が集まってお魚とか野菜とか売買するっちゅー感じですが,株式の発行市場は,特にそのような目に見える場所を必要としません.会社が株式を発行して,株式引受人(投資家)がその株式を引受けてお金を払込みます.そんなことが資本主義社会のあちこちで日常茶飯事行われていて,それら全部をひっくるめて発行市場なのです.

発行市場

株式の発行は,会社設立時だけとは限りません.例えば,(株)ユニシロが順調に成長して,東京本店に引き続き,仙台支店を出店することになったとします.手元にあるお金で出店資金をひねり出せれば嬉ぴいのですが,そうでなければ,「株式を新たに発行して,投資家に引受けてもらってお金を払込んでもらって,出店資金を集めよう!」っちゅーのが,一つの手です.第 1 話でもちょっと話しちゃいましたが,こういうのを有償増資と言います.負債じゃなくって資本金を増やすから,増資です.有償増資は,業容拡大や借入金返済など現金が必要になったときに使われる方法の一つで,取締役が「お金欲しい!だけど負債を増やしたくねぇ.」って思ったときに,取締役会決議を経て行われます.有償増資で集めたお金は,借入金などと違い,返済期限がありません.そんなお金を集めることが出来るのも,発行市場があればこそです.世の中,うまく出来てるもんです.

有償増資

尚,有償じゃない増資というのもあるんです.この場合,株式は発行しますが,新たな資金を集めることはしません.これに関する詳細は,今回の話題から外れちゃうので,またいつか.
さて,ここら辺りで,発行市場について話をまとめると,発行市場は,株式を会社から投資家へ,資金を投資家から会社へと流す役割を担うために存在してま〜す.

ところで,発行市場で集めたお金は,資本に組み込まれます.そして,第 2 話で,「株主は,残余財産分配請求権を持ってるから,会社を解散するときに資本(= 残余財産)を貰えるんだ」って説明しました.でも,これって会社解散しない限り意味無いですよね.通常,会社は永遠に続くもの(Going Concern)と仮定されてるので尚のこと.投資家が出資したお金は,原則として投資家に返還されません.投資家の選択肢の一つは,会社の利益成長を待って,配当金でガッポリ回収するという方法です.でも,投資家が出資したお金を回収できないというのは,ちと寂しい.こんなんだと,多くの投資家が株式に投資するのを渋っちゃうでしょう.例えば,銀行に預金しに行って「利息は払いますが,元金は返しませんよーだ.」って言われたら,あなたはどうします?預金しないでしょう.そう,もし仮に発行市場しかこの世に存在しなかったら,株式会社制度は,随分と利用しづらくて,維持・発展は難しいでしょう.

そこで登場しました.ジャーン!流通市場で〜す.会社が出資金を返してくれないなら,発行市場で株式を引受けた投資家 A は,流通市場で,株式を第三者の投資家 B へ譲渡して代金を受取ればいいんです.これで,投資家 A は出資金を回収したことになります.また,流通市場で株式を取得した投資家 B は,株式を発行している会社へ出資していることになります.じゃあ,投資家 B が,「やっぱ現金欲しいっつーの」と出資金を回収したくなったら,どうすれば良いでしょう?もうお解りですね.投資家 B も,流通市場で,株式を更なる第三者の投資家 C へ譲渡して代金を受取ればいいんです.こんな風に株式の換金が自由に行えるという安心感があればこそ,発行市場で株式を引き受ける気にもなるってもんです.また,「株式欲しい!」って思った投資家にとっては,株式発行に巡り逢わなくても,流通市場で株式を取得するチャンスが出来ます.やっぱり,世の中,うまく出来てるもんです.

流通市場

流通市場でメジャーなものと言ったら,何と言っても証券取引所です.が,株式は,必ずしも証券取引所を通して流通するわけではありません.投資家同士で相対で取引することだってあります.とにかく,間に証券取引所を挟んでいようがなかろうが,投資家同士の株式売買を全部ひっくるめて流通市場なのです.

証券取引所

さて,ここら辺りで,流通市場について話をまとめると,流通市場は,株式と資金との交換を投資家同士で行わせる役割を担うために存在してま〜す.

以上のような事情で,流通市場は重要ですが,これに関しては,法律でもかなり気を遣ってます.例えばこんなこともあります.あなたが持っている(株)ユニシロの株券を泥棒ヤローに盗まれたとします.あなたがすぐにこの泥棒ヤローをひっ捕まえて懲らしめたら,そりゃ当然,株券はあなたの手元に戻って来るでしょう.また,もしこの泥棒ヤローが泥棒の悪徳ブローカーに株券を売っ払っても,あなたが悪徳ブローカーをひっ捕まえて共犯であることを白状させたら,そりゃやっぱり,株券はあなたの手元に戻って来るでしょう.
じゃあ,この泥棒ヤローが,株券を流通市場を通して,全くの第三者の鈴木さん(仮称)に譲渡してしまったらどうでしょう?鈴木さんは,盗品株券だなんてことはち〜っとも知りません.果たして,この株券は誰のものでしょう?あなたのもの?ブー,違うんです(-_-;).鈴木さんのものなんです w(・o・)w.商法という法律では,株券の占有者を合法的な株主と推定することになっています.ということは,鈴木さんが株券取得時に泥棒ヤローを株主だと判断するのは尤もです.また,鈴木さん自身も株券取得後は合法的な株主と推定されます.さらに,商法では,ダメ押しで,株券の善意取得の有効性をハッキリと認めています.善意取得とは,悪意(盗難・遺失などの事実を知らないこと)・重過失なく株券を取得することです.善意取得した鈴木さんのような人を善意の第三者と呼びます.「善意」というと,鈴木さんが「いい人」みたいだけど,そういう意味ではありません.まあ,以上のような理由で,たとえ,あなたが裁判を起こして「この株券は私のです!盗まれたんですよ.ホラホラ,名義人として株券の裏に氏名が書かれてるし.」って証明したとしてもダメー(×_×).「お気の毒ですが.」というのがオチです(T_T).株券は大切に保管しましょう.
株券を盗まれたあなたは納得できないでしょう.でも考えてみて下さい.もし鈴木さんが善意取得した株券を元々の株主であるあなたに返さなければならないとしたら・・・こんなんだと,鈴木さんも他の投資家も,流通市場で安心して株式を買うことはできません.流通市場は実に付き合いづらいものになっちゃいます.何しろ,株式を買う前に,「ちょっと待てよ.もしかしてこれって盗品株券?」っていちいち調べなければなりませんから.きっと,多くの投資家は,「盗品つかまされたら危険だし,調査するのも面倒クセーから,買うのやーめよ」っと引いちゃうでしょう.そんなんじゃあ,流通市場の維持・発展は望めません.善意取得のルールは重要です.

善意取得

さて,そろそろ投資らしいお話へと行きましょう.次話以降,請うご期待.

ホーム
ホームへ帰る